第12話「レール」アーユルヴェーダ小説HEALERS

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 今日もよく晴れている。
 杏奈は洗濯物を外に出した。今日は弁当納品の日だが、早朝から仕込みをしたので、少しくらい他の雑務を行う余裕がある。
 七月下旬から、お弁当の納品が二週に一度から週に一度になった。夏休み期間中に、鮎釣りや、キャンプ、川下りに足込町界隈を訪れる観光客が増えるからだ。足込温泉には、そういった観光客が多く訪れ、物販もよく売れるらしい。
 自然に囲まれているからか、都会よりも涼しいこの地域は、夏休みに自然体験をする場としてはうってつけかもしれない。
 庭の洗濯物干しに洗濯物をどんどん広げていく。手湿疹は大分よくなってきているけれども、杏奈は洗濯物を干す時も、取り込む時も、極力綿手袋をはめるように気をつけていた。客間のシャワールームを掃除する時はゴム手袋をはめる。お風呂を掃除する時も、台所で洗い物をする時もそうだった。小須賀がいる時は、なぜか洗い物を積極的に引き受けてくれるので、杏奈としては大助かりだった。
─おれ、洗い物するために生まれてきたわ。
 洗い物が多い時、小須賀は自嘲っぽくそんなことを言うが。
 杏奈は洗濯籠をぶらさげ、軽い足取りで母屋へ戻り、ランドリーにかごを戻す。キッチンに入ると、小須賀がご機嫌な様子で弁当を仕込んでいた。
 小須賀は、今日も至極ラフな出で立ち。肌着のような薄い白シャツに、ジーパン、前掛けといった格好だった。
「今日、新しい子が来るんだ」
 小須賀の夜の勤務先はキャバクラである。どうやら、その店に新しいキャバ嬢が入るというので、こんなにもご機嫌なのだ。不思議な人だ、と杏奈は思う。
「キャバクラで働いている女の子とやり取りしてて、彼女さん、怒らないんですか?」
 小須賀には何年も付き合っている彼女がいる、という情報は、つい先ほど知った。いつものことだが、聞いてもいないのに、小須賀はわりと繊細に思えるような情報でも、なんでもないように自己開示するのだ。
「怒らないよ」
 小須賀は自信たっぷりに言った。根拠はなさそうであったが。
「浮気しても、結局は元に戻るから。お互い、やっぱりお互いが一番だって気付くんだよ」
─のろけか。
 高度で複雑な男女の駆け引きは、いつでも直球な杏奈には分からない。
 小須賀の彼女は、三十代半ば。しかし、お互い結婚を意識しているわけではないという。
─私なら、その年齢で長く付き合っている相手がいれば、すぐ結婚しちゃうけど。
 小須賀や、その彼女の思考回路にはついていけない。仕事に関してもそうだ。杏奈は、いまでこそ業務委託でこのような仕事をしているが、基本、堅実派だった。正社員として安定した給料を得ていたほうが、心は安定する。
 しかし、小須賀は正社員なのかバイトなのかという、雇用形態には、ほとんど頓着がないようだった。
─自分がやっていて楽しい仕事をしてたほうがいいじゃん。
 これについて話した時、小須賀はそう言った。
 そもそも、アーユルヴェーダのことにも興味がなく、スリランカ料理を作ったこともない小須賀がここで働き始めたのも、ほとんど偶然だったようだ。
─前に働いてた店、年末年始は休業する店だったの。だから休み中に稼げるバイトをジモティーで探してたら、寺の炊き出しの仕事があって、どんなのか分からないけどとりあえず応募してみた。
 その寺は、足込善光寺。
─加藤さん、知ってるでしょ。あの人が面接したの。本尊のことやら年間行事のこととか、いろいろ説明してくれたんだけど、いつまで経っても仕事の内容は話してくれなくてさ。それで、聞いてみたの。ところで、おれは何をしたらいいんでしょう?って。
 小須賀はつらつらと、当時のことを話した。一度話し出すと止まらない、おしゃべりな男である。
─で、加藤さんはなんておっしゃったんですか。
─甘酒を売ってほしい、って…
 さすがの杏奈も、それには笑った。
─除夜の鐘を突きに来るお客さんとか、初詣のお客さんにふるまう甘酒ね。ちょっと拍子抜けしたけど、それが結構楽しくてさ。気を利かせて、他の炊事の世話とか掃除とか引き受けてたら、加藤さんに気に入られちゃったの。
 小須賀は武勇伝でも語っているかのように、自慢げだった。
─知り合いのところで働いてみないかって言われて、紹介されたのが美津子さん。
 クライアントといい、従業員といい、善光寺から送られてくる人は、少なからずいるようだ。
─加藤さんと美津子さんには、深いつながりがありそうですね。
─ああ。あかつきの創立にも、加藤さんがかなり関与したみたいだよ。
 美津子がこれほど広い敷地に立派な上屋を構えられたのには、それなりのからくりがあるらしい。
 スピーカーのような小須賀と働いていると、尋ねていなくても、いろいろな情報が入って来る。
 杏奈はフードテナーを取りに物置へ行こうと、ふらりと応接間を横切った。
「…そう。おめでとう」
 応接間の定位置で、美津子は誰かと電話をしている。杏奈は、盗み聞きするつもりはなかったのだが、美津子が誰と何を話しているのか気になって、微妙に歩く速度を落とした。
「フェイシャル?いいのよ。無理して来なくて」
 ホールまで出たが、やはり電話の内容が気になる。そこからは早歩きになり、物置からすみやかにフードテナーを取り出して、応接間にそっと近づいた。
「つわりが始まっているんでしょう。落ち着いてから、またいつでも来ればいい…癒しがほしい?嬉しいけれど」
 美津子はまだ喋っている。
─つわり。
 杏奈は耳を澄ます。美津子は電話相手と談笑している。
「つわりを落ち着けるにはね…」
 杏奈は邪魔をしないよう、静かにキッチンに入る。キッチンには、小須賀はいない。おそらく一服しに外へ出たのだろう。
 美津子の電話が止むのを見計らって、杏奈は応接間に入った。
「美津子さん」
 スマホを操作していた美津子は、杏奈に呼ばれて顔を上げた。嬉しげに頬を緩めたままだ。
「今の電話…」
「愛さん。妊娠したって」
 愛は、定期的にあかつきに通っている常連客だ。足込町から車で四十分という、近くはないところに住んではいるが、アーユルヴェーダの施術が気に入って、月に一度ほど、癒しの時を楽しんでいる。先日彼女があかつきを訪ねた時、書斎で話す二人の会話を、杏奈はいつものように居間で立ち聞きしていた。
─最近、どう?
 体調について尋ねる美津子に、愛は仕事の残業のことやら、肩こりのことやら、いろいろと話していた。それから、最も気になっていることに触れた。
─最近、旦那のにおいが気になって。
 愛の語調には、かすかな不安と、期待が入り混じっているように聞こえた。
─水道水とかも。なんか、においが気になって、胃がムカッとする感じがするんです。
 ほんの一瞬、間があった。
─生理は。
 美津子は尋ねる。
─今月はまだ。前回から、三十五日経ってます。
─妊娠したんじゃない。
 美津子の指摘は、杏奈も同感だった。
─はい。私もそう思ったんですけど…
 まだ検査していないという。美津子は、今日訪ねるべきはあかつきではなく別のところだろう、と愛に言った。
─とりあえず、市販の妊娠検査薬で検査してみたら。
─そうですよね。
 それから美津子は、妊娠している可能性があるので、今日は施術はできないと言った。愛はその日、カウンセリングを受けただけで帰った。

「よかったですね、愛さん」
 傍の椅子の背に手を置いて、杏奈は言った。美津子も頷く。
 杏奈は長らく、友人の妊娠や出産の報告を、忌諱していた。自分も愛する人とそうなることを切に望んでいたのに、叶わなかったからこそ、それを得た人たちと接するのが嫌だったのだ。
 しかし、お客さまが相手だと、違う感慨を抱く。単純に嬉しい。
「愛さんはヴァータが乱れている人だった」
 美津子はそう言い、杏奈を見た。
「ヴァータが乱れると不規則性が生じる。鶏と卵の関係だけれど」
「はい」
「愛さんは生理周期が不安定だった」
 ヴァータの不規則性がそこに現れていた、ということか。あかつきでアビヤンガを施しながら、美津子は、愛のヴァータを鎮めることに注力してきたという。
「タイミング法で妊娠を試みていたけど、半年以上妊娠できなくて、年齢も年齢なので、不妊治療に通うべきか迷っているところだった」
 杏奈は静かに聞いていた。こうして美津子がお客の状態について詳しく話す時、それはただの話ではなく教育なのだということを、杏奈は分かっていた。
「おりものの状態について尋ねると、さあ、気にしたことがないから分からないという」
「おりもの…」
 杏奈は妊活の知識が皆無ではなかったが、おりものの状態が何を示すのかは、知らなかった。美津子曰く、おりもものの状態は、排卵の時期の一つのバロメーターになるのだという。タイミング法で妊娠を試みていたということは、排卵の時期がいつかを正確に知ることが重要だったのだろう。
「愛さんの場合は生理周期が安定していなかったから、予測が難しかった」
 そこで、排卵検査薬を使ってみてはどうかと提案した。通常、次の生理開始日の十四日前が、排卵日と言われている。
「もちろんヴァータを整える提案も試してもらった。同時に、現代のツールも併用する」
 使える物は全部使う。何しろ、受精のチャンスは一年に十二回前後。三十五歳以上が高齢出産と言われていて、愛は三十六歳。うかうかしている暇はなかった。
 美津子は愛から、排卵検査薬の結果を周期ごとに写真でもらっていた。
「排卵日も不規則であることが予想されたからね」
 美津子は神妙な面持ちでそう言う。
「初めての検査で、排卵が定説よりも早いタイミングかもしれないと気づいた。それから二周期目の試みで、妊娠」
 幸運にも、結果が早く出てくれた。美津子は常にも増して温和な表情で、しかし淡々と語った。杏奈はその様子に見惚れた。
「美津子さんは、やっぱりすごいです」
 それで、思ったままを口に出した。
「お客さまの妊活のサポートができちゃうなんて」
「一般的な知識よ」
「いえ、おりもののこととかは、私は知りませんでした。排卵検査薬も…」
「妊娠したいと望んだら、いろいろな情報を集めるものよ。その人が、自分は妊娠しにくい状況にあるという自覚があればなおさらだ…けれど愛さんは、何が自分の優先順位か、ちゃんと見られていなかった」
 愛はあかつきを訪ねるひと時を唯一のリラックスタイムとし、それ以外はとても忙しい日々を送っていたのだという。そのためヴァータ・ピッタが増加し、非常に思考が錯乱していた。
「愛さんは自動車メーカーの総合職。とても優秀な人なの」
「へえ」
 愛知の自動車メーカーといえば日本の産業を支え続けている大企業だ。それは相当優秀な人に違いない。
「しかし、妊娠のために情報収集ができないくらいには、忙殺されていた」
 ほんの少し、美津子は眉をひそめる。
「アーユルヴェーダの方法で自分をケアするどころか、妊娠に関する一般的な知識にも明るくなかった」
 そして、愛は、お金を払ってあかつきに来るまで、周りからそういった情報を与えてもらうことができなかったのだ。
「杏奈」
 美津子はしっかりと杏奈を見据えた。
「覚えておくと良い。現代女性は歴史史上、もっとも社会的に成功している」
「はい」
「なのに、その成功している女性たちが、こと妊娠に関しては、もっとも成功していない」
 それはそのまま、杏奈の心にも突き刺さる。杏奈もまだ、妊娠を望める年齢だ。自分ごととして、聞かねばならない。
 美津子はふっと、顔を正面に戻した。
「家の中の役割に加え、稼ぎ手としての役割を果たす。こういう状況で妊娠しようとすることは、オオカミに追われながら妊娠しようとするようなものなの」
「でも」
 途方に暮れたように、杏奈は言った。
「ほとんどの女性が、今はそういう状況です」
「そうね」
「本当は家の中の役割だけをしたいという女性もいると思いますけど、外に出たいと思う女性にとっては、その…子供か夢か、迫られるようで、つらいですね」
 世の中には、それでも、二兎を得ている女性もたくさんいるが。
「現代の女性は」
 美津子は、顔を正面に向けたまま、ゆっくりと切り出す。
「自分が何を得たいか、そのために何をするか、これまでの女性以上に、注意深く観察していなければいけないわね」
 人生の優先順位は何か。それに行動がつながっているか。杏奈は美津子に言われて以来胸に刻んでいるその言葉を、ここでも思い出した。
「とにかく、安心したわ」
 美津子は一仕事終わった後のように、ほっとした表情になった。
「美津子さんは、妊娠に関する現代的な知識も豊富にお持ちなんですね」
 自身は出産したことはないのに…とは、さすがに言わなかったが。
─いや、出産したことはなくても、妊娠したことはあるっていうことも…
 杏奈は美真のことを思い出してそう思った。そんなことは尋ねられるわけがないが。
「豊富っていうほど、特別な知識ではないけれど」
 美津子は苦笑する。
「もっと難しいケースになると、私も追いつかないことがある。でも、産科に関しては、あかつきには顧問医がいてね」
 初耳だった。
「先生に相談すれば、何かしらアドバイスをくれるから。彼女のことも相談していたの」
「そうなんですか」
「自分でネットの情報をあさるより、現役の先生に聞いた方が正確でしょう」
「ええ。心強いですね」
 美津子は口元に微笑を浮かべた。
 杏奈は椅子の背から手を離し、再びキッチンへ向かった。
─私も、美津子さんのようになりたいな。
 心の中で、そうつぶやきながら。
「これ見て」
「うわっ」
 履物を変えて調理台に歩み寄るや否や、すでに一服を終えて、折り畳み椅子に腰を下ろしていた小須賀に声を掛けられた。
 敵にでも遭遇したかのようにびっくりする杏奈に、小須賀は眉をひそめつつ、スマホの画面をかざしてみせた。
「なんですか、これ…」
 youtubeの動画が流れている。
『あ、連れました』
 川で釣りをしている様子が流れている。特に意味のない台詞にまで、下にテロップがつく。
「ウィングチャンネル。足込町の自然をネタに、動画作ってるみたい」
「へえ」
 小須賀が画面をスクロールさせるのを、杏奈は一緒になって見た。今のは、海の日に行われた鮎釣りコンテストの様子らしい。他にも、DIY、キャンプ、ツーリング、草刈り、害虫駆除などの様子がアップされている。つい先ごろ開催された、栗原神社の夏祭りの様子も。
「足込町への観光客の流入数調べてたら、偶然見つけてさ」
「はあ…これは、田舎暮らしにあこがれる人たちの興味を引くかもしれないですね」
「まあね。おれはそそられないけど」
 チャンネルの説明を読むと、足込町での暮らしの様子をゆる~く紹介、とある。この足込町に、これを作っている人がいるのだろうか。
 小須賀はスマホの画面を閉じた。
「こういう動画、作れば」
「へ?」
「動画流行じゃん。集客につながるかもよ」
「そう言われても…」
 動画編集のスキルは、杏奈にはない。そもそも、機材もない。ソフトはともかくハード系の知識は、杏奈は不得手だった。
 けれど、小須賀の言うことは最もだ。これからは個人が動画を発信していく時代。しかも、ヘルスツーリズム(またはメディカルツーリズム)は流行りを見せていて、あかつきの事業内容も、今時の需要に合っているかもしれなかった。
 感染症以降、二拠点生活で田舎暮らしを楽しんでいる者、それに憧れを抱く者も多い。
 安らぎと癒し、エステ、体に優しい料理、ストレスから解放されてゆっくりと休養する時間。あかつきが、自然豊かな環境でそういったサービスを提供していると動画で発信できれば、興味を持つ人はいるだろう。
─新たな課題ができてしまったな。
 いったんアイディアが浮かぶと、考えれば考えるほど、やらない手はないように思えてくる。
「仕事するか」
 小須賀は喝を入れるようにそう言って腰を上げた。杏奈も我に返って、調理台を振り返る。
 クライアントの望みをかなえること、自分たちの仕事を広く世間に知ってもらうことも大切だが、今やるべきことは、出来上がった料理を粛々と弁当箱に詰めるという、いつも通りの仕事だった。

 八月上旬。
 日中はクーラーを入れないととても過ごせないほどの暑さだ。杏奈はそれでも、料理をしている間は、一時暑さを忘れる。
 朝食作りをする時間が好きだ。特に、あかつきに来て以来、質素な夕飯を早い時間に食べるようになってから、朝はお腹が空いている。体が軽く食欲がある状態で料理を作るのは楽しかった。
 今日の朝食は、大麦と緑豆のキッチャリー(スパイスの入った豆粥)、蒸し野菜、ドーシャのためのマサラを混ぜたつけダレ。
 応接間の長テーブルの中で、いつも美津子の座る席のあたりは、最も朝日が入る。そこに料理を並べ、写真を撮る。
 美津子はその様子を、応接間の入り口からそっと眺めていた。
 杏奈は以前にも増して、精鍛込めて料理を作っている。作った料理の写真も撮り溜めしている。したがって、インスタに上げるネタは豊富で、美津子のチェックが追い付かなくなるほどだ。
「本に載っていたレシピをもとに作ってみました」
 朝食の席で、キッチャリーについて杏奈はそう言った。
 キッチャリーと呼ばれるインドの豆粥を幾度となく食べている美津子だったが、今日のキッチャリーは、これまでに食べたものとは印象が違っていた。煮崩さない程度に柔らかくした緑豆と大麦の食感が楽しい。
 付け合わせの野菜は、畑で採れたいんげんと人参。
「本のレシピをランダムに真似するのもいいけれど」
 料理を八割方食べ終わってから、美津子が口を開いた。
「テーマを持って作った方が良いんじゃない」
 杏奈は人参を咀嚼する速度を早めながら、美津子を見た。
「テーマですか」
 ごくりと人参を飲み込んでから、言った。
「テーマというか、準備というのか」
 蒸籠にあと二本残っているいんげんの、一本だけを美津子は取った。もう一本は杏奈に残した。
「アーユルヴェーダ料理教室をするつもりで、メニューを作ってみたら」
 カリ、と前歯でいんげんを噛む。噛んだまま、杏奈は咀嚼を始めることなく、目線だけを美津子に向ける。
 するつもりで…ということは、実際に、今すぐやっても良いと言われているわけではない。しかし、将来的にそれを見込んで、試作をしておけということか。
 杏奈は少しだけかじったいんげんを飲み込み、
「どういうテーマにしたらいいでしょう」
「それはあなたが考えて」
 当然のように美津子は言った。
「ここに滞在するクライアントが生徒になるとする。クライアントに何を伝えるためのレッスンにするのか、決めておくと良い。そのために、今のうちに自分のことを振り返っておきなさい」
 杏奈は瞬きをした。
「私のことを、ですか?」
「なぜその料理が良いのか、食べたらどうなったのか、経験を基にストーリーを考えておくの」
 それは教室を売り込む時に役に立つだろう。
 あかつきに来る前、何を悩んでいたか。アーユルヴェーダを実践することで、どうなりたかったのか。食事の質を改める中で、気付きがあったか。課題は解決できたか。
「考えたことを、何かに書いておくといいわ。まあ、そんなこと言わなくてもあなたはやっていると思うけれど」
 美津子は思い出したようにそう付け加えて、
「何を考えたか、そのうち見せてちょうだい」
 杏奈はためらいがちに頷いた。自分の考えた内容を美津子に添削してもらうのは恥ずかしかったが、料理教室の内容を考えろと言われたことは嬉しかった。
「ところで杏奈」
 ごちそうさまをした後、美津子がまた思い出したように言った。
「お盆の間、日曜以外であれば、休みを取っても構わないわよ。小須賀さん、出勤できるみたいだから」
「え…?」
 杏奈は目を丸くした。
「お盆には、実家に帰るでしょう?」
「は…」
 杏奈は動きがフリーズした。
 お盆に実家に帰る…忘れていたが、その必要があったことを思い出し、杏奈はどことなく憂鬱になった。

 美津子から暇を出され、お盆休みの終わりに、杏奈は不便な電車を乗り継いで実家に帰った。
 そして今、杏奈は家族・親戚と一緒に、実家の仏間にいる。仏壇に向かって手を合わせながら、杏奈はやはり憂鬱だった。
─自分があかつきにいなくても、なんとかなる。
 しかし、杏奈が憂鬱なのは、それが原因ではない。
 自分がまだ戦力になれていないことなど、分かり切っている。普通の会社であっても、試用期間の間から即戦力になれることなど、そうないことだし、別に自分は実働以上の賃金はもらってはいない。と言っても、最初に美津子から給与明細にあたるものをもらった時、大分良心的な計算がされていたので、杏奈は美津子に向かって頭が上がらない心地がした。杏奈が日ごろしている家事まで加味して、計算をしてくれていた。家賃も含め、生活費も大分助けられていることを考えると、東京で一人で料理教室を開催していた頃より、経済的には安心感がある。
「それじゃあ、この後食事になりますんで」
 父の正博が、親族に向かって言った。
「車で行かれる人は車で。バスで行く人は、もう来る頃だと思いますので、乗ってください」
 法事の後、親戚一同とともに、昼食を食べに行くのだ。
 今日も姪っ子の芽衣は、元気いっぱいに走り回って、親戚のおじいさん、おばあさんたちに愛想を振りまいている。出産してまだ間もない義姉のこはるは、法事には参加したが、その後の会食は乳飲み子の世話をするため欠席するとのことだった。
 こはるは七月に男の子を出産した。陽斗という。
 甥にあたるこの新生児に、杏奈は腫物にでも触るような心地で接した。あまりにも柔らかくて、繊細で、どう接していいのか分からなかった。赤子は小さくて可愛かった。抱いてみればと言われて、抵抗があったものの抱かせてもらった。抱き方もよく分からなくて、赤子もとても泣くので、すぐに抱っこをやめてしまったが。
 とにかく、親戚の注意が姪っ子と甥っ子に向いているのをいいことに、杏奈はなるべく、扇風機の影に隠れて気配を消していた。
 その頃、美津子はこの日で滞在が終わるクライアントにシロダーラをしているところだった。
 お盆休みを利用して来るクライアントもいるので、あかつきを創立して以来、お盆期間に美津子が休みを取ることはなかった。
─帰ってきてもいつもいないと、怒られるだろうか。
 美津子はクライアントをヒートマットに包み終わると、そんな余念が湧いた。本当は、その人に意識を向ける時には、いつでも、帰ってきてくれると感じているのだけれど。
 発汗工程に入った頃、あかつきのキッチンでは小須賀が滋味にテンパっていた。
─うおっ、せいろにカビが…!
─げ、マスタードシード切れてるじゃん。
─あれ、生姜どこにしまったんだろう…
 小須賀は杏奈の不手際に気づくと、いちいち舌打ちして心の中で悪態吐いた。致命的な痛手はないものの、自分以外にキッチンで主導権を握っている者がいると、ちょっと不都合だ。
 いや、これが気が利く者ならば、せいろを不十分に乾燥させることなどなく、スパイスの補充をマメに行い、冷蔵庫の整理整頓までしておくことだろう。しかし、あののんびりした女には、それは望めまい。生真面目で、勉強熱心なのだろうが、小須賀がそれらから恩恵を受けることはない。
「はあ~」
 小須賀はため息をついて、折り畳み椅子に腰かけた。一時の癒しを求めて、スマホを開く。

 広い座敷のある和食処で、杏奈は長テーブルの端に座っていた。隣には母の陶子。向かいには兄の裕太、それから芽衣。
 父の正博は施主として、親戚の話し相手になっている。末席に座る杏奈たち親子は、気楽に食事をしていた。裕太は、芽衣の食事の世話を焼かねばならないので、少し大変そうだが。
「あーあ」
 茶碗蒸しの具材の中に、何か気に入らないものがあったのか、芽衣はべーっと食べたものを吐き出してしまう。見かねて陶子が席を立ち、芽衣の隣に回る。
「吐き出したらいかんよ」
「べーっべーっ」
 芽衣は顔をしかめて、口の中に手を突っ込んでは、食べかすを放った。
「あんた、今のうちに食べちゃいなさい」
 なかなか自分の食事に集中できていなかった裕太は、芽衣の世話を陶子に任せ、冷めてしまった料理を食べ始めた。
 杏奈が久しぶりに家に帰ってきても、陶子の目線は常に、姪っ子に向いていた。
 こはるが陽斗につきっきりなので、今はあまり祖父母に面倒はかからないが、そのうち彼の世話にも忙しくなることだろう。
 陶子は杏奈に近況を尋ねたが、特に不自由なことはないと分かると、足込町での詳しい生活や、仕事のことにまで深入りしてこない。杏奈は杏奈で、それなりにやっていると、端的にしか状況を説明しないから、それも無理のないことかもしれなかった。
 陶子がいなくなった席に、親戚のおばさんが割り込んできた。
「裕太くんの娘さんだったね。今何歳?」
 という、お盆と正月の度に繰り返されるお決まりの会話が飛ぶ。
 父方の祖父母の法事なので、集まっているのは父方の親戚である。陶子はもともとが明るく社交的な性格なので、父方の親戚ともにこやかに接していた。父の正博よりも、普通に親戚との会話を楽しめているように見える。
「二人目は男の子なんでしょう」
「はい」
「よかったねえ」
 男女とも授かって、という意味か。
「ありがとうございます」
 母に似て愛想のよい裕太は、もりもりと食事をしながら、笑顔で応対する。
 子供がいると、それだけで会話のネタができるから、小さいながらに偉大なものだ。
 話しかけてくる親戚の人たちが、ことごとく、杏奈に対しては特に何の話題も持ちかけてこないことに安堵しながら、杏奈は父のほうを見た。仏間で、誰かから杏奈の近況を尋ねられた時、正博はかなりうやむやに説明をしていた。
─ヨガを教える仕事をしていますよ。
 正博はそう言っていた。杏奈の就業状況は、正博自身もよく分かっていない。そんなことを親戚に説明できるはずはないので、間違ったことを言うのも仕方がなかった。聞いたほうも、それ以上どう会話をつなげたら良いのか分からなくなるので、杏奈のことには触れないに限る、といった空気になっていた。
 杏奈にとっては、その方が都合が良い。内心、落ち込んだような、後ろめたい気持ちになるのは、仕方がなかったけれど。
─杏奈は、東京で働いていますよ。本社勤務になったので。
 杏奈が大企業で働いている時は、はっきりとそう話せていた正博なのに。大企業を辞め、自分の信じる道に向かったのが、そんなに恥ずべきことなのだろうか。かつてのように、親戚の前で胸を張れる娘でなくなって、申し訳ない。父に対し、そういう気持ちはあった。
 同時に、反骨心が湧いた。自分は自分の信じる道を行くのだ。何が悪い、と…
 しかし杏奈は、自立しきれていない身の程をわきまえて、そんな高飛車な態度は取らなかった。
 おしゃべりな陶子と親戚の会話に時々参加しつつ、杏奈は口数も少なく、食事をする。
 料理は、あかつきで自分が用意する量の二倍はあった。全部食べたら消化力を損ねてしまうかもしれないが、後ろめたさを感じているこの状況では、それでなくとも消化力は弱くなっていることだろう。
─消化力は、感情の影響を濃く受けるものだ。
 杏奈はアーユルヴェーダを学んで以来、そのことを念頭に置いている。
「食べきれない分は、持って帰ってもいいのかな」
 おばさんが席を離れた頃、杏奈は陶子に訊いた。
「あんた、今日帰るんだよね」
「うん」
「だったら、持って帰って夕ご飯の足しにするといいよ」
 杏奈は頷いた。
 またしばらくは、実家に帰るつもりはない。自分のしていることを家族に自信をもって話せるようになるまで、あまり近くにいたくないのである。そんな自分の気持ちが、でも、杏奈は子供だと思う。
 体調を崩し、帰ってきた娘を迎え、ごはんの面倒を看てくれた家族。少しでも心安らかに生活できるよう、お金を工面してくれた家族。結局、再就職することになった娘を、新居まで送り届けてくれた家族。どんな状況になっても受け入れてくれるのが家族なのだ。杏奈は両親のありがたみを、以前よりも強く感じていた。
 今度こそ、自分の満足のいく仕事をして、経済的にも自立したい。これでダメだったら、年齢的にも、いっそうよい条件の仕事に就くのは難しくなるだろう。そんなプレッシャーや気負いもあるからか、少しでも早く、あかつきに何かしらの貢献をしたかった。
 実家でゆっくりしている場合ではないのだ。
 自分の進みたい道に、最も繋がっていそうなレールを見つけ、そのレールに乗った。あとは、どう動かすか。

「九月中旬で、契約が切れるんですよね」
 お客が帰った後、あかつきの応接間では、美津子と小須賀が向かい合っていた。
 美津子は立ち上がって、体を左右にねじった。お盆の間、施術が連続し、多少なりとも疲れた。
「そうね」
 小須賀が杏奈の愚痴を言い始めたのは、美津子が賄いを食べ終わった頃だった。わざわざお皿を下げに来てくれたのだが、その後、いかに自分は杏奈と比べて気が利く人間か、雄弁に語り始めたのである。そうかと思ったら、杏奈の愚痴であった。運転が上達しない、人の話を聞いているのか聞いていないのか分からない、道具の管理や掃除が行き届かない。
─もっとかわいい子が良かったんですけど。
 最後の言葉が、最大の不満の種だろう。美津子としては別に、杏奈がかわいくないとは思わないのだが。単に、小須賀の好みではないというだけだろう。
 しかし、小須賀のいう「かわいい」とは、性格的なかわいさのことであるらしかった。
「契約、更新するつもりなんですか?」
 小須賀としては、運転の仕方だの、接客態度だの、余計な教育をしなくてはならない杏奈は面倒だった。明るくて楽しい子なら、それも甘んじて受け入れようというものだったが、杏奈は、人との接触を嫌う。一緒に働いていてもあまり楽しくなかった。それもあって、小須賀の目にはかわいくなく映るのだった。
 美津子はその場で、軽く体を伸ばしながら軽く唸るだけだった。
「親戚なんですか?」
 黙ったままでいると、小須賀が、意外なことを言った。
「どうして?」
「親戚でもなければ、わざわざああいう子を採用しないかなと思ったんです」
 美津子は苦笑いした。美津子は小須賀のことを、陽気で、心根が優しい男だと思っている。だからこそ雇っているわけだし、仕事にしても、教育係としても、信用していた。しかし、その小須賀から、暗に杏奈の契約を更新するなと言われたのであるから、苦笑するよりほかなかった。
─もう少し、立ち回りが上手くならないと。
 処世術が下手な杏奈を思い浮かべ、この時ばかりは、美津子は心の中でため息を吐いた。
「そうであるはずがない」
「じゃあなぜ、美津子さんはあの子を受け入れたんですか?」
 小須賀は珍しくむきになる。
「それまでにも、働かせてほしいと頼み込んできた人はいたでしょう」
 それも、杏奈よりやる気に満ち、コミュニケーション能力に優れ、スキルもありそうな人たちが。
 美津子は黙って首を傾げるばかり。
「僕はてっきり、沙羅さんが後釜になるのだと思ってました」
 ついに小須賀は、具体的な名前を出してきた。
─私が、後継を探していると…
 そんな発言はした覚えはないが、小須賀の目にはそう見えるらしい。
 美津子はいつもの席に腰を下ろした。小須賀はまだ煮え切らない様子で真正面に立っている。まだ、返答らしい返答を一つももらっていない。美津子は机の上に両肘をつき、両手の指を組んで、唇の前に当てた。
「杏奈の発信していた文章を読んだことある?」
 と、逆に質問をする。小須賀はむっつりした表情で、
「ブログなら見ました」
「どう思った?」
「読ませる文章だと思いましたよ」
 それは認める。小須賀が杏奈の教室のブログを見つけたのも、インスタを見つけたのも、偶然だ。アーユルヴェーダのことや、その料理の情報を仕入れようと検索をかけると、時々引っかかってくる。検索上位に上がってくるほどには、内容が良く、実際に見ている人がいるということだ。
 美津子は指を組んだまま、目を閉じた。
「あの子は内側に、いい言葉を持っている。けれど、人と向かい合って話す時は、それが出て来ない」
 いつからかは知らないが、おそらく、長い間ずっと。しかし、表現したいものは内側に溢れている。世界に向かって表現したいという意欲もある。ネット上の世界では、それをすることができている。
「それなら、HPやインスタの代行として雇ったらいいんじゃないですか」
 小須賀は、まだ納得がいかないという表情である。
「あの子は人と接する仕事には向いていません。内部の人に対しても、お客さんに対しても」
 美津子は目を開き、手をテーブルに下ろした。
「杏奈に苦手な分野があることは承知しているわ」
 美津子は話ながら、初めて杏奈とリアルで顔を合わせた面接時の様子を思い出していた。
 あんなに負のオーラをまとった人を、美津子は、ここに来るクライアントの中でも、しばらく見ていなかった。もう一生、楽しい気分にはなれないんじゃないかというような、楽しいという感情を忘れてしまったような。笑っていても、笑っていない顔。表情が硬く、こちらが歩み寄ろうとしても、壁を築いてしまうような臆病さと用心深さを感じた。けれど、もしこちらから全く歩み寄らないならば、それはそれで孤独と不安に打ちのめされてしまいそうな繊細さも垣間見える。
─ウダーナヴァーユに、障害があるのだろうか…
 とも、美津子は思う。
 時々、ぐっと言葉を飲み込むような様子を見せる。感情は動き、思考は働いているのだろうに、それを外に出さず押し留めているように見えた。それは、杏奈の癖だ。長い間、言いたいことを言わずに、感情を内に秘めて過ごしてきた結果なのかもしれない。
「得手不得手があるのは、誰だって同じ」
 美津子は小須賀を見据えて、諭すように言う。 
「苦手なことに正面から向き合わなければならないとしても…」
 進みたい道を歩もうという意志はあるように見える、と美津子は言おうとして、
「あかつきで働きたいという意志は、あるように見える」
 と言い替えた。
 小須賀は顎を引いて、まだ不満そうに美津子を見ていたが、やがて視線を逸らした。美津子は緊張を解こうとするかのようにふっと笑った。
「そんなに答えを急がなくても良いじゃない」
「そうですけど」
「次の契約を更新したとして、もしも、杏奈に見どころがないと思ったら、次のタイミングで契約を切ることもできる」
「別に、僕はあの子を切ってほしいとは言っていません」
「そう聞えたけれど」
 小須賀はきまり悪そうに、首を振った。
「いいえ。一度でもあかつきに受け入れたのには、何か理由があるのかなと思って。もしかしたら、僕が見抜けていない、あの子の良さがあるんだったら…」
 そんなものはないだろうけど…と、小須賀は心の中でだけ、一言挟み、
「それを教えてもらえれば、もう少し違った目線で見られるかなって」
 なにせ、いつももたついていて、どんくさくて、イライラしてしょうがない。と、やはり最後は愚痴であった。
「分かったわ」
 美津子は慰めるように言った。
「小須賀さんは、直したほうがいいことがあったら、その都度杏奈にそれを伝えているわね」
「ええ…なんか言ってました?」
 美津子は首を振る。
「そういう人が、あの子には必要なのよ。恐らく、ずっと優等生でやってきたんだと思う」
 誰からも怒られないように。小須賀は沈黙する。
「これからもそうしてほしい。私も、できる限りそうするわね」
 小須賀は大きくため息をついた。
「ま、女の子の教育には慣れてますから…大分違うカテゴリの女の子ですけど」
 無理やり自分を鼓舞するようにそう言うと、いつものように打ち解けた笑みを美津子に向けた。
 小須賀がキッチンに戻って行ってから、美津子は机の上に頬杖ついた。
 小須賀が言うことも、分からないではない。
 美津子は、クライアントとのメールのやり取りや、問診票の内容から、ある程度相手の人となりを察することができた。杏奈に関してもそうだ。面接までの、メールのやり取り。質問に対する抜け漏れのない返答。簡潔で、丁重な表現。至極聡明な女であることが伝わってきた。しかし、実際会ってみると、どこか抜けているところがあり、メール上のやり取りで感じていた人柄とのギャップがあった。それは、別のところでも感じる。
 美津子はいま一度、インスタグラムの杏奈の個人アカウントを見た。絵画のように美しい料理が並んでいる。特に、ここ一か月の間に投稿された写真は、その前よりずいぶん垢抜けて見えた。料理の出来栄えだけを見てフォローしている人がほとんどだろうが、中には、その文章を毎回、じっくり読んでいる人もいるに違いない。生真面目でやや硬い文体だが、文学的でもあり、他とは一線を画す創造性が伺われる。
 これらの投稿は全て、杏奈の人柄をよく表しており、信頼に足る人物であるという印象を与える。文字の上では、たいへんに魅力的な表現ができる人物なのだ。リアルな世界で、同じように表現をできるかは、美津子にもまだ分からなかった。
 けれど正直なところ、それらのことは、美津子はさしたる問題と思っていない。
─アーユルヴェーダのヒーラーとして、最も大切なことは、他にある。
 そして、その素質を持つ人にこそ、あかつきに居てほしいのだ…

 


 

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