第33話「共感」アーユルヴェーダ小説HEALERS

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 新しい年。
 杏奈はいつもと変わらない時間に母屋に入り、一目散にキッチンへ入る。
 一晩浸水しておいた玄米を圧力鍋に入れ、お粥を作る。汁物は、正月菜(小松菜)と椎茸、鶏肉を入れた澄まし汁である。鶏ガラから鶏出汁を作る方法は、小須賀から教えてもらった。
 仁美に朝食を提供し終わると、杏奈はそそくさと玄関を出て、離れに向かった。料理教室時代に使っていた小さな木製の看板を、門の外へ運ぶ。この日のために作った、あかつきのポスターと、ビラの入った箱。
 今日から数日の間、足込町中の人々がここを通って、栗原神社へお参りに行く。多くの人が車を使うだろうが、中には徒歩や自転車でここを通り、ビラを持って行ってくれるかもしれない。もっとも、娯楽施設の少ない足込町において、あかつきは既によく知られた存在。町民の中には、単発の施術を受けに来る常連客もいる。それでも、少しでも多くの人にあかつきを認知、あるいは再認知してもらうため、ビラを置く努力を怠るべきではない。
「仁美さん、初詣に行きましょう」
 午前中の施術が始まる前に、杏奈は仁美と一緒に栗原神社へ向かった。オイルを含んだ髪が外気にあたって冷え、頭が冷えるといえないので、仁美には深めの帽子を被ってもらう。
 地面には、昨日の雪がうっすら積もっている。
「空気が澄んでいますね」
 仁美は気持ちよさそうに深呼吸した。
 参拝するための列に並んでいる間、杏奈は花神殿から一人の老人が出てくるのを目撃した。ぐう爺こと、栗原神社の最高権力者・宮司である。
 本殿の前にできている長い行列は、神門の外まで続く。ぐう爺はふらふらと歩いた後、その列を途中で横切り、授与所のほうへ消えていった。
─先生は、年始も仕事か。
 ぐう爺は、順正のことを考えていた。通常診療はしていなくても、お産や急な手術の必要性があれば、正月だろうと関係なく、対応していることだろう。そうでなくとも、こんなに人がたくさんいる栗原神社に、やって来るわけがない。
 はあ~とぐう爺はため息をついた。
「あのおじいさんも神社の方?」
 授与所から、白い袴を履いたやせっぽちな老人の様子を見ていた者がある。お正月だけ臨時で巫女のバイトをしている女だ。彼女は正社員の巫女である小夜に尋ねた。授与所には、お守りやお札、鏑矢などを求める人々で、いつになく人だかりができている。
「この神社のラスボスだよ」
 小夜はそう言いつつ、参拝者から受け取ったお金を木箱に収めた。正月は、信じられないほど万札が入ってくる。
「マジ?」
 バイトの巫女は小声で囁いた。
「ほよよ~って感じだけど、そう言われると、確かにラスボス感ある」
「ほよよ爺さん」
 若い二人の巫女の語気には、常に笑いが混じっていた。
 授与所でこんなやり取りがさえていた頃、杏奈と仁美は、まだ本殿へと続く長い列の後ろにいた。参拝するのに、予想以上に時間がかかった。
 帰ってくると、仁美はすぐに施術を受けに二階に上がり、杏奈は離れに戻り、帰省の準備をした。
 荷造りが終わると、今度は昼食の準備。図らずも、今日明日、仁美は夕飯断食をするので、夕ご飯の仕込みは必要ない。
「今日の午後から、ハーブオイルを使おうと思う」
 午前中の施術が終わった後、美津子はキッチンに来て杏奈にそう言った。
「少し数値が良くなっているわ」
 施術後に毎回計測する体重や体脂肪率は、若干数値が良くなっている。今日の朝撮影してもらった舌の写真を見るに、吸収不良も初日ほどはひどくない。本人も、いつもより体が軽く感じていると言っている。
「あなたのキッチャリークレンズのおかげね」
 そう言われて、杏奈は思わず口元を緩めた。
 お昼ごはんには、お節料理らしい品をいくつか出した。鮭の幽庵焼き、紅白なます、黒豆、お煮しめ。
「あまり、明日との落差をつけないで」
 美津子が苦笑いを浮かべながらそう言ってくれたのは、この上ない称賛であっただろう。
 杏奈はこの日の午後、母に迎えに来てもらい、実家へと帰った。

 一月三日。
─三が日の間に呼び出しを食らうなんて…
 永井はちょっと眉間に皺を寄せながら、厚着をし、電動自動車であかつきまでやって来た。
─美津子さんは、私のことをなんだと思っているのかしら。
 母屋に入ると、玄関先には大きな鏡餅が飾られていた。ホールの家具の上にも、居間の飾り棚にも。
「あら」
 応接間に入るや否や、キッチンからいいにおいがして、永井は美津子に声を掛けに行くこともなく、まずキッチンへと足を踏み入れた。
「あ、おめでとうございまーす」
 小須賀は、スマホを速やかにしまいつつ、久しぶりに見るセラピストに、年始の挨拶をした。
「あけましておめでとう。ええと…」
「小須賀です」
「小須賀さん。久しぶりね」
「覚えてましたか?」
「ええ。…」
「…」
「永井さん」
 なんともいえない沈黙を破ったのは、美津子だった。
「あけましておめでとうございます」
「おめでとう。美津子さん、困るわよ、親戚の人たちが来てるのよ」
 永井は開口一番、美津子に苦情を言った。
「今日はどうしても、顔なじみのお客がアビヤンガを受けに来たいと…」
 美津子は申し訳なさそうに肩をすくめた。
 正月は、蓋を開けてみれば意外と暇、ということもある。いつもはなかなか受けに行けない施術を、正月休み中に受けに行こうと思い立つ客は時々いる。
 足込町一番の繁華街(?)、野郷に夫と共に住み、子供たちも自立している永井は、日ごろゆったりとした生活を送っているのだが、正月だけは違っていた。娘二人が、旦那と子供たちを連れて帰ってくるのである。去年産まれたばかりの赤ちゃんもいる。夫の兄弟も挨拶に訪れる。
「まあ、ある意味、面倒くさい親戚づき合いから解放されて、いいんだけどね」
「どっちなんすか」
 呼ばれて迷惑なのか、好都合なのか…小須賀は思わず突っ込んだ。
 小須賀とて、本当は今日出勤する予定はなかった。しかし、美津子に呼ばれたのだから仕方がない。顔なじみのお客であれば、施術後も、美津子はそのお客の対応に長い時間を要するかもしれない。スポットセラピストの永井は、アビヤンガはできても、その後仁美の食事を作り、タイミングを見て応接間に誘導し、提供するといった流れは知らない。そこで、小須賀に連絡がいったのだ。
 聞けば、杏奈は今帰省中。今日の午後帰ってくるということである。
「何作ってるの?」
 永井は履物を変えて、ヌッと小須賀の横に立った。
「豆の煮込みです」
「まあ、ここのいつもの食事じゃない」
 お正月なのに、気の毒ねぇ…と永井はつぶやいた。この初老の女性は、悪気はないのだが、物を率直に言い過ぎるきらいがある。
「いいんすよ。お客さんは非日常を求めてるんですから」
「ちょっと味見してみていい?」
 なんだかんだ、あかつきのスパイス料理に興味津々な永井である。
「いつもの食事なんで、永井さん食べ飽きてるでしょ」
「私にはいつもの食事じゃないのよ」
「はいはい、邪魔でーす」
 小須賀は、永井をキッチンから追い出して、
「ちょっと一服してきまーす」
 自分はお勝手口から外へ出た。
「たぶん、あとで豆の煮込みも、他の料理も、包んでくれると思いますよ」
 永井とともに応接間に移りながら、美津子は言った。
「あ、そう。じゃあ、私のごはんの足しに…」
 永井はいつも、淡々とものを言う。
 それから永井は、キッチンのほうをちょっとだけ振り向いて、小須賀のことを、こう評した。
「いい加減だけど、悪い子ではないのよね」

 杏奈があかつきへ帰ってきたのは午後九時近く。やはり、母に送ってもらった。
 その翌朝、杏奈はいつもより少し遅い時間に、キッチンに立った。美津子に連絡をして、今日の朝から炊事を担当すると伝えたのだが、昨日小須賀が来て、朝ごはんの仕込みも済ませていってくれたらしい。
「大丈夫?あまりゆっくりできなかったでしょう」
 美津子はそんな風に声をかけつつ、その実、帰ってきてくれてありがたかった。昨日のお客が今日も施術を受けに来たいと言ったので、仁美の食事の準備をしてくれる誰かが必要だった。
「お客さまの対応をしている間、仁美さんの施術はどなたが?」
「沙羅が来るわ」
「えっ」
 海外赴任している夫が帰って来て、沙羅は夫の実家に、子供たちと共に滞在しているのではなかったのか。
「昨日電話で、旦那さんが子供たちを見てくれることになったから、仁美さんの施術をさせてくれないかって」
 沙羅の方から、頼み込んできたのだという。
 その時、呼び鈴が鳴った。訪ねて来たのは加藤だった。どうやら、仁美に朝ごはんを出す前に太極拳をするらしい。
「私も参加していいですか?」
 杏奈は、美津子にとも、加藤にともつかず尋ねた。最近、寒くて朝のヨガを怠けがちだったし、朝ごはんの準備もすることがない。
「もちろん」
 答えたのは加藤だった。加藤は、フード付きのマントのような外着を着ていた。
 太極拳が終わると、仁美にはそのまま応接間に入ってもらい、朝ごはん、続きでカウンセリングも行った。
「とても調子がいいです」
 仁美は、つぶらな瞳を輝かせた。
「お腹の張りが全くないですし、よく眠れていると感じています」
 心配していた食欲も、驚くほど落ち着いている。
「今日も、夕食を抜こうと思えば、抜けると思うくらいです」
「実は、昨日は重湯の予定だったのだけれど、夕ご飯を抜いたの」
 美津子は杏奈にそう言った。
─なるほど。
 今まで消化に費やされていたエネルギーが他に回って来て、仁美は、それを心地よいと感じているようだ。
 しかし、あかつきでの生活もあと少し。徐々に、元の生活に戻していく準備もしなければならない。
「今日から夕ご飯を再開しましょう」
 問題は、もとの生活に戻った後、仁美がどのくらい、あかつきで得た教訓を活かせるかということであった。
 午前中の仁美の施術は、カティバスティ。午後は、軽めのフットマッサージと、フェイシャル。
 午後の施術の後、杏奈と仁美は、普段の仁美の食生活をどう改善していくべきか、長々と話し合った。特に遅番の日は、食生活が乱れがち。昼休憩が二時近くになるので、職場の事務室でお弁当を食べたり、外に食べに行ったりする。帰りがけに、車の中でポテトチップスなどのスナック菓子、パン、生菓子類をつまむこともしばしば。家に帰るとまともな食事を作る気が起きず、ファストフードやカップ麺、コンビニ弁当を食べることもある。
 アーユルヴェーダの理想論を掲げるだけなら、簡単だ。誰にでも同じことを言っていれば良い。しかし、仕事の関係で、どうしても食事の時間をコントロールできない人、他に食事を作ってくれる人がおらず、時間も取れない人に、理想論をそのまま適合させるのは酷だ。
─難しいな。
 杏奈は、心の中でうーんと唸り続けた。できれば、初日に教えたキッチャリーを、夕ご飯にこそ作って食べ続けてほしい。しかし、車内で食べる甘いものやお菓子、夕ご飯に食べるファストフードやインスタント食品を、欠かせないものという意識ができてしまっているなら、その意識を変えるのは、難しいことのように思えた。
「それでも、意識を変えるよう、試み続けるしかない」
 杏奈から話し合いの報告を受けた後、美津子は言った。
「仁美さんがここを訪れた時の状態は、何によって引き起こされていたか。ご自身が忘れてしまうのなら、こちらが何度でもそこを強調するのよ」
 少なくとも、あかつきにいる間は。
「結果には必ず原因がある。日々のどんな行いが、どういう結果をもたらすか、理解していただくの」
「はい」
「なりたい姿を思い起こさせることも大事だ。あかつきに来たのはなぜなのか。どんな自分になりたいと思っているのか」
 変わるためには、強い動機と、その動機を認識し続けることが大事なのだ。
 美津子は、進捗管理表を見ながら、
「明日はようやくシロダーラね」
 神経系への効果が高い施術だ。
 美津子は言った。オイルを額に垂らす時の揺らぎが、自律神経系に影響を与え、思考回路をも揺るがすのだという。凝り固まった思考や、停滞している感情、そういったものを柔らかく溶きほぐし、癒していく効果があると…。美しい旋律を聴いている時や、蝋燭の静かに揺れる火を見つめている時にもたらされる癒しと、それはよく似ている。
「ストレスや感情を、食べ物で代替させたいという気持ちを、変えていければ良いのだけれど」 
 美津子は、シロダーラの思考回路に及ぼす影響について、控えめに話しながらも、絶大な期待を寄せているようだった。

「思考回路を変える…」
 離れの寝室に、布団を並べて敷きながら、沙羅はその言葉を反芻した。今しがた、杏奈は美津子から聞いたシロダーラの効果を、沙羅に話したのだ。
「シロダーラの高いリラックス効果には、そんな派生効果もあるんですね」
 明日、仁美にシロダーラを施すのは沙羅である。
「…私、責任重大じゃないですか」
 沙羅はそれに気が付くと、急に表情が引き締まった。普段は編み込まれ、後ろで一つに結ばれている髪が、寝間着の上に羽織ったニットカーディガンの胸のあたりまで下ろされている。
 この日、沙羅は家に帰らず、あかつきに泊まることにした。といっても、母屋ではなく、杏奈が居候している離れにである。
「普段通りで大丈夫ですよ…」
 と言いながら、杏奈にはどうすれば、美津子の言っていたような効果が出るのか分からなかった。何か特別な念を込める必要があるのか。シロダーラ単体で功を奏するものなのか。一回では足りず、長年施術を受けなければならないのか。
 杏奈はシーツの上に毛布を重ね、その上に掛け布団と枕を置いた。沙羅は借りものの枕を抱えながら、相好を崩す。
「なんだか修学旅行みたいで、楽しいですね!」
 少女のように笑う沙羅につられて、杏奈もちょっとだけ笑った。沙羅はきっと、修学旅行を楽しんでいた少女だったのだろうな、と思いながら。
 暖房をつけているといえど、部屋の中は十分に暖かいとはいえず、無防備な恰好をしているとどんどん足先が冷えてくる。二人は早々に布団に入ったが、明かりは消さなかった。
「杏奈ちゃんは、いつまでここに住むつもりなんです?」
「さあ…」
 考えたこともない。
「ここにいたほうが、何かと都合が良いんですよね」
「通勤にですか?」
 沙羅は布団から顔だけ出して、その顔を杏奈のほうに向けている。杏奈は沙羅のほうを見て話をするのが気恥ずかしくて、いつもは横寝なのに、仰向けのまま話をする。
「それもありますけど、アーユルヴェーダを体感でいち早く習得するためには、美津子さんの傍にいて、一緒に暮らすことが一番早いと感じるんです」
 なんとなくそう思っていたが、言葉にするのは初めてだった。
「なんだか私は、自分が長期間あかつきに滞在しているクライアントであるように錯覚することがあります」
「杏奈ちゃんは、どうしてそこまでアーユルヴェーダを習得したいんですか?」
「…」
 杏奈は天井を見やったまま、しばし言葉を探した。
「気持ちは分からなくないです。私だって、早く施術を身に着けてクライアントにアウトプットしたかったんですから」
 だからこそ、今ここにいる。
「学べば学ぶほど、もっと深められる。もっと別のことも学べる。そうやって高みを目指していくのが、私大好きなんです」
─高みを目指す…
 杏奈は薄目を開けながら、心の中で沙羅の言ったことを繰り返した。
「でも、目指す高みの先には何があるんだろう。自分の本当の目的はなんなのだろう…って、時々考えることがあるんです」
「…」
「だから、杏奈ちゃんはどんな高みを、なぜ、目指しているのかなって」
 杏奈はまだ言葉を探していた。
 しかし、長く沈黙するのも悪いと思い、少しだけ顔を沙羅の方に向けた。
「あのう…ごめんなさい。私、なんて言ったらいいか分からなくて」
 沙羅はそれを聞くと、にこっと笑って、うつ伏せの体制から両肘を布団の上についた。ヨガのコブラのポーズのように、上半身だけを少し起こす形になる。
「いや、住み込みであかつきで働くって、すごいことだなって思ってるんですよ」
 もはやプライベートの時間も、全て、アーユルヴェーダの習得にかけているように見えるのだ。
「でも、ずっとここにいたら、その…」
 沙羅は、天井を仰いで、ふさわしい言葉を探した。
「世界と遮断されてしまうんじゃないですか?」
 杏奈も上半身を起こし、腹ばいになった。
「世界と遮断される…」
「そう。多くの人と知り合うとか、関係を結ぶとか」
「ああ…」
「お付き合いしたい人とか、いないんですか?」
「…」
 杏奈は、うっすら笑いを浮かべながら、かぶりを振った。ごまかし笑いだった。
「昔は、すごく好きな人はいましたけど」
 両肘を床についたまま、少し前の床に視線をおく。
「今はもう…」
 杏奈はもう一度かぶりを振り、枕の上で、不貞寝するようにうつ伏せになった。
「もし、今度人を好きになるとしても…」
 と言って、自嘲するような笑いを浮かべる。
「もう、ロマンチックなことは求めていないな」
 それは、常々考えていたことである。
「昔は、何も考えず、ただ好きっていう感情に酔って、その人の傍にいたいばっかりでした…だけど、今はそんなこと、面倒だって感じます…」
 そんな強い感情を抱いたら、疲れてしまう。
「昔はそんな風に思わなかったのに。昔は、その人がいればそれだけで満たされて、何かを習得しようとか、誰かの役に立っていなければとか、そんなこと、考えることもなかった」
 でも、相手の幸せを願ったり、相手本位の行動を取ったりしていたわけではない。ただ、自分の気持ちを満たしたいばかりだった。そんなのは愛情ではなかったかもしれない。
「分かります」
 沙羅は静かに、共感を示した。
「その人が傍に居さえすれば、自分の高い目標とか、お金とか…そんなものがなくたって、幸せでいられる。そういうことってありますよね」
 杏奈は頭を少し起こして、沙羅をちらと見た。淡々と語るが、沙羅もそんな情熱を誰かに向けたことがあるのだろうか。たとえば、今の夫に。
「昔は、それが本当の、男女の愛だと思ってました」
 しかし、杏奈の予想は、すぐに外れだと知ることになった。 
「今の夫には、そこまで強く、情動を動かされることはなかったな…」
 沙羅は至極あっさりとそう言った後で、杏奈の方を見て作り笑いをした。
「もちろん、好ましい人ではありますよ」
 杏奈は、視線を沙羅から枕元へと、再びゆっくりと下ろした。沙羅もまた、最も好きになった相手との縁を切ってきた人なのだと知った。
「けれど、他の何がなくとも、この人の傍に居られれば幸せとも感じなかった」
 夫になり得るかどうか、家族を作れるかという、冷静な、計算高いともいえる目線で、栄治を見ていた。
 小さな頃や若い頃は、結婚という形式は、副次的なものだと思っていた。夫になる人というのは、心から好きで、ずっと一緒にいたと思う人。その結果、結婚という形を取るにすぎない。
「昔はとても情熱な恋というものも、あったように思いますけど」
 未来永劫続く男女の愛などは、存在しないのかもしれない。沙羅は、その人への愛情はそこで途絶えて、却って良かったと思おうとした。狂おしいほどの情動は、常識を破るような行動をさせる。とてつもなく甘美な、男女の愛を経験したことが、全く無駄だとは思わないけれど。
「杏奈ちゃんは」
 沙羅は再び身を横たえて、布団をかぶりながら尋ねた。
「どうして、その方と結ばれなかったんですか…?」
 杏奈は枕を見下ろしたまま、沙羅には、隠しておけないと思った。今逃れても、どの道、またこの話題に触れることがあるだろう。杏奈がアーユルヴェーダを学ぶ動機が、そこに深く根差している限り。
「…奥さんと子供がいました」
 真実を言ったのは、沙羅が相手だったから。沙羅の人となりや、思考の傾向を知らなければ、話しはしない。
「…そういうことも、ありますよね」
 沙羅の肯定の言葉は、思いやりからなのか。沙羅に視線を向けた杏奈は、しかし、沙羅の次の言葉で、そうではないことを知った。
「私もそうでした」
 それは、同じ経験をした故の、共感であった。

 絶頂で摘み取られた愛。
 それがどのようにつらいものであるかは、宇野のことを思い出しても、自明であった。
 しかし、不義の関係であったからこそ、宇野のように正々堂々と、悲しむことはできない。悲しむことなど許されない。悲しみの隣にはいつも罪の意識があり、罪の意識があるところには自己嫌悪と不信感があった。
 消費された時間による老いと、別の愛への機会損失は、罰であり、自業自得であった。
「沙羅さんも、あの…」
 杏奈はそうっと沙羅のほうを向いた。常日頃は表情豊かな沙羅だが、今はその顔から喜怒哀楽が読み取れなかった。
 杏奈はすぐに、目を背けた。この世界には、どのくらい、そのような関係の男女がいるのだろう。今の杏奈の狭い人間関係の中でさえ、身に覚えのある人がいるということは。
「私はヨギではありませんね」
 沙羅は、ぽつりとそう言った。
「でも、関係を断ち切ったんでしょう」
 杏奈は、沙羅を擁護するように言った。相手には家族がいたから。
「取り返しがつかなくなる前に」
 沙羅は少し笑って、目を閉じた。
「心の中で、想ってはいけない人のことを想うだけでも、不貞ですよね」
 誰かにそう言われなくても、沙羅自身が、過去の自分の行いを悔いている。
─ブラフマチャリヤ。
 ヨガの八支則の、一番最初の段階、ヤマ(五つの禁戒)の一つ。ヤマとは、周りの人々や世界をどのように扱うかという社会的マナーであり、道徳的な原則だ。
 過去の沙羅は、その最初の一段階でさえ、実践できなかった。だけど、その時の自分には、どうしようもなかった。
 杏奈は、沙羅がそれほど心を傾倒させたという相手と、どのように関係を断ち切ったのか、想像もできなかった。誰にも知られることなく、二人の間だけで決着をつけたのだろうか。自分に何を、どう言い聞かせて、その想いを鎮めたのか。それとも、彼との間に起きたことに意味づけを行うことで、執着を断ち切ったのだろうか。
「杏奈ちゃん、もしかして、男の人が怖くなっちゃったり、信じられなくなったりした?」
 沙羅に尋ねられ、杏奈は我に返った。
 なぜそんなことを尋ねるのか。もしかしたら、相手に嘘をつかれたとか、裏切られたとか、杏奈は被害者なのではないかと思ったのかもしれない。
─そうではない…
 もし、自分が完全に被害者だったら、別の苦しみがあっただろうけれど、自己嫌悪の念は、今ほどではなかっただろう。
「いいえ…そんなことはありません」
 もし、この場所に、不倫された立場の人間がいたとしたら、身勝手極まりない、腹の立つ会話だと憎悪することだろう。
 けれど、どうしようもない愛の渦に巻き込まれた経験を知る者同士、二人は、同じ必要性を感じている。過去の自分自身の、身勝手な振る舞いが生み出した副産物を消化する必要性を。
「そうならいいんですけど」
 沙羅は仰向けになって、布団の上端を両手でつかみ、引き上げた。
「アーユルヴェーダに望むのは、男の人に対するトラウマを解消することなのかと…」
 呟くようにそう言う沙羅の声は優しかった。杏奈は、やはりこの先輩セラピストを、姉のような存在だと感じる。
─心配してくれたのか。
 杏奈は沙羅に倣って仰向けになった。
 一段階、暗く調整しているけれど、照明の明かりが眩しい。
「償いたいんです」
 杏奈は、右手の甲を目の上にのせて、目に影を作りながら、つぶやいた。隣で、沙羅がもそっと動く衣擦れの音がする。
「償い…?」
「そう。人を癒して、助けになることで…」
 沙羅は、体と顔をこちらに向けていた。視線を感じて、右手の位置を少し上にずらすと、沙羅が目をぱっちり開いているのが視界に入った。
「それができないまま、誰かに好きになってもらおうとは思わない…」
 杏奈は独り言のように言った。今は自分のことを、価値が人間だとは思えない。そんな自分を、誰が好きになってくれるだろうか?そんなこと、端から期待しはしない。
 沙羅は視線を杏奈に据えたまま、
「何を償うんです?」
 普段と変わらない、明るささえ滲んだ声で、尋ねた。
─きっと、話してくれる。
 沙羅はそれを直感していた。

 翌朝、杏奈は目覚ましが鳴る前に目を覚ました。目覚ましが鳴らないうちに目を覚ますのは今日に限ったことではない。隣を見ると、沙羅はまだ、静かに寝息を立てていた。
 布団をたたむのは後回しにし、静かに着替えをすると、音を立てないようにそうっと離れを出て行った。
 向かう先はキッチンと決まっている。
 一晩漬けておいた玄米とあずきでお粥を炊く。それから蒸し野菜と、そのつけダレ。
「おはようございます」
 沙羅は、朝ごはんの支度が終わる頃、キッチンにやってきた。
 調理台の上にパソコンを置き、折り畳み椅子に座ってインスタの内容を練っていた杏奈は、パソコンを少し閉じ、視線を上げる。
「早いですね」
 沙羅は杏奈に声をかけつつ、棚から自分のマグカップを取り出した。
「お粥を作るのに、時間がかかりますから」
 杏奈はそう言いながら、白湯の入った保温ポットを沙羅に渡した。
 沙羅はまだ化粧と髪型を整えていなかったが、下ろされた髪には、ちゃんと櫛が通っていた。
「あかつきに一日中いたのって、初めてかもしれない」
 コップから湯気が立っている。沙羅はすぐに白湯に口をつけずに、フーフーと息を吹きかけて冷ました。
「機会があったら、また泊めてくださいね」
 もうぬるくなったマグカップの中の白湯を啜りながら、杏奈は頷く代わりに微笑んだ。
 あれから、そう長いことは話をしなかった。しかし、その短い間に、杏奈は話した。なぜアーユルヴェーダで人を癒す道を選んだか。
 それを聞いた後でも、沙羅は、昨日までと変わらぬ様子で接してくれる。
 沙羅は、熱くなったコップに手を当てたり、離したりしながら、再びパソコンに向かう杏奈の傍らで佇む。
─杏奈ちゃん…
 杏奈は、今度人を好きになるとしても、もう激しい情動を生むようなロマンは求めていないと言った。その気持ちは分からなくないけれど…。
─本当に人を好きになったら、そんな今までの自分の理性なんて、簡単になくなっちゃうんだよ。
 もしまた恋ができたら、何の前触れもなく唐突に、それを知ることになるだろう。
 沙羅は、杏奈が再び、そんな経験ができたら良いと思っている。杏奈が本当に望んでいるものを手に入れるには、杏奈が面倒だと言った、その感情が必要なのだから。
 杏奈が視線を上げ、沙羅と目が合った。ようやく冷めた白湯を一口すすって、沙羅はにこっと笑う。
「布団は、片付けておきました」
「ありがとうございます」
「あと二日、頑張りましょうね」
「はい」
 仁美があかつきを去るまでに、自分たちにできる最善を尽くし、できる限り良いコンディションに整えた上で、日常の世界に返す。
 それが、あかつきのスタッフの使命だった。

 一月五日。
 太極拳の練習の終盤で、おもむろに講師がすり替わった。杏奈にも伝えられていないことであった。
 美津子は、居間の窓を背にする位置にあぐらで座り、傍らにティンシャを置く。ティンシャは、もともとはチベット仏教の僧が儀式や浄化の目的で使う密教法具のひとつ。現在ではヨガのクラスでも目にすることが多い。
 つい先ほどまで、今美津子がいる位置で太極拳を指導していた加藤も、杏奈の隣に座った。近くに加藤の存在を感じると、杏奈の心は、不思議と落ち着いた。それは昔、尾形の前に座り、後ろから抱きしめられた時に感じた、安心感にも似ていた。
「ガイド付き瞑想を行います」
 その言葉を聞いた瞬間、杏奈の背筋は、無意識にピンと伸びた。美津子の口から、生でガイド付き瞑想を聞くのは初めてだったからだ。
 初めて明神山に登ったあの日。杏奈は山頂で、瞑想のメモを読み、録音をした。実はそれ以来一度も、録音した瞑想を聞くことがなかった。けれど、思いがけず瞑想ができると知って、杏奈の心は強くそれを求め始めた。
─早く。
 杏奈は静かに、美津子が瞑想の説明をし終わるのを待つ。
─早く…
 美津子が始めたガイド付き瞑想は、しかし、杏奈が知っているものとは違っていた。ICレコーダーに録音され、杏奈に渡されたガイド付き瞑想の内容は、チャクラと呼ばれる、七つのトリガーポイント(急所)に働きかける瞑想であった。
 今回の瞑想は、それとは異なる。ガイドに従って、特定の食べ物の性質や、味を思い浮かべては、次々と消していく…そういう類のものだった。仁美のための瞑想だからだろう。
 それでも杏奈は、注意深く美津子の声を聞いた。自分の中にもまだ残る、特定の食べ物の味や性質を求める気持ちを、少しずつ砕き、燃やしていった。
 美津子のガイドが終わると、数分間、そのまま目を閉じ、座ったままの状態でいる。
─心を使い過ぎてはならない。
 美津子は三人の前で、自分も目を閉じ、静かに呼吸を続けた。
 この瞑想は、食べ物への執着を取り除くためのもの。と同時に、食べ物を探し求めて、日々頻繁に働く心の動きを、静止するためのものであった。
 一月という季節は、一年の中で最も、自分の内側に意識を向けやすい時期かもしれない。身を切るような寒さと鋭い風。大地が凍り付く、一年で最も寒い月。日中でも暗く、空は灰色。動物は冬眠する。雪が降り積もる景色の静けさは特別な安らぎをもたらす。人々が、寒さから逃れるために、厚着をして部屋に閉じこもっていたいと思うように、意識も、この時期には自然と外側ではなく内側に向く。
 静かで暗く、内省的な冬は、休息し、深く熟考するのに最適な月だ。
 チリリーン。
 チリリーン。
 ティンシャが鳴る音がする。
「ゆっくりと目を開けてください」
 美津子の声に誘導され、杏奈はゆっくりと目を開いた。
 美津子は冬らしい灰色の景色を背景にゆったりと座って、口元に微笑をたたえていた。

 最後のカウンセリングは、シロダーラの後ではなく、昼食の後に行われた。
 応接間に設置したテレビモニターに、美津子のパソコンの画面を投影する。
 美津子はいつもの席に座り、モニターを正面に見るお誕生日席に仁美が、美津子の正面に沙羅と杏奈が座った。
 七泊八日に渡る滞在期間中の、身体の状態の推移について、振り返りを行う。施術の前後、毎回計測している計測器の結果を表にまとめたものを、美津子はパソコンに映した。
 計測項目は次の九つである。BMI、体脂肪率、筋肉量、骨量、内臓脂肪レベル、基礎代謝、体重、体内年齢、水分量。
「体脂肪率は、滞在四日目以降、徐々に減少しています」
 モニターにペンのおしりを向け、折れ線グラフの線をたどりながら、美津子が解説をした。
 滞在四日目といえば、一月一日だ。この日まで、施術には単なる太白ごま油を使っていた。毒素を排除しないうちに、薬効のあるオイルを使うのは、逆効果だと思ったからだ。
 あかつきでの規則正しい、落ち着いた生活と、夕ご飯のキッチャリーへの置き換えが三日間続き、この時、初めてハーブボールを使用した。
「ハーブの効果が出ているってことですかね」
 沙羅は、杏奈の耳元でささやいた。
「内臓脂肪レベルは、高いままですね」
 仁美は残念そうに口を両手で覆った。美津子は冷静に頷いて、
「ですが、その中でも、数値が下がっています」
 確かに、内臓脂肪レベルの数値も、体脂肪率と同じタイミングで下降していた。
「反対に、筋肉量、骨量、基礎代謝は、上昇しています」
 沙羅と杏奈は美津子のペンが指すところを目で追った。
「体内年齢、五十九歳から、五十二歳」
 示し合わせたように、沙羅と杏奈の目線はテレビから美津子に向き、
「七歳若返りました」
 そして、仁美に向いた。仁美は、目を見開いた。こんな風に、数値で若返りを確認できるとは思っていなかったようだ。
「体重は、二キロしか減らなかったのに、年齢は七歳若返った?」
「ハーブオイルをたっぷり吸収しているので、今、体は潤っている状態です」
 体重が思うように減らないのは、栄養が充満している影響もあるということか。
「数値ではこのような結果がありますが、仁美さんの感覚としては、いかがですか?」
 美津子に尋ねられて、仁美は「そうですね…」と言いながら少し考える。
「いつもは、ご飯を食べたあと眠くなったり、だるくてしょうがなかったのですが、滞在中はそういうのが減りました」
 杏奈はなるべく音を立てないように気を付けながら、仁美の感想をパソコンに入力する。
「あと、滞在の後半は、天気が良い日には外に出かけてみようかな…って思えるくらい、活動的というか、明るい気分になってました」
 いつもは家に閉じこもりがちだし、体を動かすのは億劫に感じるのに。
 美津子は頷いた。沙羅と杏奈は顔を見合わせ、お互いに目だけで笑い合う。
「その他に、滞在を通して、気付いたことや考えが変わったことはありましたか?」
「やっぱり、今の食生活に問題があることが分かりました」
 あかつきに来た目的は、体重を減らすことだった。自分の食生活への関心や疑念が強かったのだろう。
「杏奈さんとお話し、自分の食生活の中で、何をどう変更するか、方針ができたのが良かったと思います」
 杏奈はタイピングの手を止めて、仁美を見た。外食でどういう店を選び、何を食べるか。コンビニを利用するなら、どういうものを選ぶか。間食を食べるなら何であればより健康的か。小さなことだが、細かく議論を重ねた。それを、良かったと思ってくれたか。
「自分の生活に合った提案だったので、取り入れていきやすいと思います」
「そうですか」
 美津子は頷きながら、杏奈を見た。杏奈は視線をパソコンに落として、再び仁美の言ったことを入力する。
「食べ物を娯楽の道具のようにみなしてしまうけれど、食べ物は命なんだと言われて、とても心に響きました」
 美津子は仁美に顔を向けながら、ふと、掃き出し窓の方を見やった。窓のその向こうには、あかつきの庭と、畑がある。美津子自身、仁美にそういう話をした覚えはない。とすれば、これも杏奈との会話の中で得た気づきなのであろう。
「この気持ちを常に持っていたいと思います」
 杏奈はタイピングしながら、脳内ではなぜか、軽快な音楽が流れていた。おそらく仁美とこの話をした時に、音楽が流れていたので、記憶に一緒に残っているのだろう。
「たっぷり時間を取って、継続的にアーユルヴェーダに則った生活をできたからですかね…体が安らいだように感じます」
 仁美は他にも、美津子に日々の取り組みについて書くように勧められ、自分の気持ちや変化を観察できるよう、手帳に記録を残すことを始めたらしい。
 仁美の言葉や表情から、変化を起こすことに対し、前向きな姿勢が伝わってくる。
 あかつきの三人は、互いに視線を交わし、小さく頷き合った。仁美のラサーヤナ(若返り)は、ある程度うまくいったようだ。

 美津子と杏奈は、玄関先まで仁美を送り出した。仁美の荷物の一部は、沙羅が持っている。この後、仁美を駅まで送ってから、沙羅は直帰することになった。
「ありがとうございました」
 仁美は深々と頭を下げ、人好きのする笑顔になった。
 お土産に、家でもキッチャリーを作れるようにと準備したキッチャリーキットを渡すと、仁美はそれを受け取りながら、にっこり笑った。
 仁美が帰っていくと、美津子と杏奈は応接間に入った。
「今回のクライアントは」
 美津子は立ったまま、
「非常に満足度が高かったと思う」
 と言って、杏奈を振り返る。
「この一週間、あなたが彼女をいろいろな所に連れ出したり、食事について彼女に寄添ったアドバイスをしたりした結果ね」
 杏奈は少し顎を引き、目線を泳がせた。何よりもトリートメントが効いているのだと思うが、そう言われるのは嬉しかった。
「特に、キッチャリークレンズの効果は大きかったと思う」
 美津子は、体感的にそう思った。食生活を改善させることで、施術の効果がより大きなものになる。
「杏奈、そろそろオンライン料理教室を始めてみる?」
「え?」
 杏奈は目を見開いた。
「消化力の重要性と、消化力を改善するアーユルヴェーダ料理として、キッチャリーを紹介するの」
 今回、仁美に伝えた内容、そのままに。そして、それに参加した生徒にあかつきを紹介する。アーユルヴェーダの生活習慣と食習慣をトリートメント。それぞれ、単体で取り組むよりも、一緒に連動させることでより大きな効果を得られることを強調するのだ。
「分かりました」
 杏奈はそう答えると、いつになく嬉しそうな笑顔を浮かべた。

 

 


 

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